2020-01-06
ハタ・ヨガ・プラディーピカーの要点
「ハタ・ヨガ」自体は、伝説的な人物であるゴーラクシャナータにより大成されたとされていますが、16世紀ごろになって、「ハタ・ヨガ」を1つの修行体系として、ひとまとめに編纂した書物が『ハタ・ヨガ・プラディーピカー』と言われています。
1.ハタ・ヨガの意図
1-01
ハタ・ヨガの道術を太初に示したもうた祖神シヴァに帰命したてまつる。ハタ・ヨガは、高遠なヨガに登らんとするものにとって、すばらしい階段に相当する。
1-02
ヨガ行者スヴァートマーラーマは自分の尊師なるナータを礼拝してから、ひとえに人々をラージャ・ヨガに導かんがために、ハタ・ヨガの教えを説く。
1-03
異説がいり乱れる闇に迷うてラージャ・ヨガを知らない人々のために、慈悲深いスヴァートマーラーマ道士はハタ・ヨガの灯明(プラディーピカー)をかかげる。
1-67
様々な体位、保気(調気)、その他のすぐれた諸所作など、ハタ・ヨガの実習に関するすべてのことは、その結果たるラージャ・ヨガに達するまで修行しなければならない。
4-79
ラージャ・ヨガを知らないで、もっぱらハタ・ヨガだけを行ずる人たちのことを、我は、努力の効果を逸した人たちだというのである。
4-103
ハタとラヤの方法は、全てラージャ・ヨガの完成のためにある。ラージャ・ヨガに熟達した人は死を克服している。
『ハタ・ヨガ・プラディーピカー』
解説
ヨガ(ラージャ・ヨガ)に至ろうとするものにとっての階段が「ハタ・ヨガ」であると説いています。そして、ヨガを知らない人々をヨガに導くために、ハタ・ヨガの灯明をかかげると説かれています。
2.ヨガへ至るための条件
1-14
===省略=== すべての心遣いを捨てて、ヨガ教師に示された道によって、もっぱらヨガの修行だけにすべての時をささげなければならない。
1-15
ヨガは次の6つの事柄によって失敗する ― 過食、過労、戒律への固執、交際、落着きのないこと。
1-16
ヨガは次の6つの事柄によって成功する ― 熱心、敢為、剛気、真実の知、信念、交際の全廃。
解説
ヨガへ至るためには、熱心にやり通そうとする強い姿勢、真実の知識、信念、交際の全廃が重要な条件になると説かれています。また、身体を疲弊させるほどの過剰な行為や、修行以外のことにあれこれと関心を向け時間を費やすことが、失敗する要因だと説いているのでしょう。
3.ヨガへ至るための4つの段階
1-56
我々は気道を清掃する方法である印相行法などの生気に関する作法を修練しなければならない。ハタ・ヨガは様々な体位、調気、ならびに印相と呼ばれる諸操作からなっている。
1-57
その次にナーダに注意を集中するのが、ハタ・ヨガにおける修習の順序である。非交際を守り、節食をし、すべての貪愛を捨てて、ヨガに専念する人は、一年後には成就するであろう。このことについて疑いをさしはさんではならない。
解説
ハタ・ヨガの主要な意図は、気道を清掃することであり、そのために様々な体位、調気、印相があると説かれています。そして、気道が清掃された次には、心臓で鳴るナーダと呼ばれる音に注意を向ける瞑想行法を行うようにと説かれています。
1.体位行法:
姿勢の操作を中心とする修行法
2.調気行法:
気息の操作を中心とする修行法
3.印相行法:
生気の操作を中心とする修行法
4.瞑想行法:
心意の操作を中心とする修行法
これら4つの行法は、順番に「体位 → 調気 → 印相 → 瞑想」と4段階に組み立てられているようです。しかし、調気には肛門と喉と腹の締付を行う印相を伴わせることが説かれていますので、実際のところこれらは、渾然一体の修行法と言えるでしょう。
1.体位行法
1-17
体位行法はハタ・ヨガの第1段階であるから、最初に説くことにする。
心身の強健と無病、手足の軽快などを得るためには、体位行法を行うがよい。
解説
体位行法の意図は、基礎作りと言え、調気行法、印相行法に上ぼる前段階と言えるでしょう。
2.調気行法
2-01
ヨガ行者は体位が確実にできるようになったうえで感覚を克服し、健全食をほどほどにとり、ヨガ教師に教えられた方式に従って、調気行法を修練すべきである。
2-02
生気が動くと心意も動く。生気が動かなければ心意も動かなくなる。ヨガ行者は不動心に達しなければならない。だから、生気の動きを制止すべきである。
2-04
気道に汚物が詰まっていると、生気は身体の中央を通る中央気道を流れない。そのような場合に、どうして忘我の状態が起こり得よう。また、どうして修行目的の達成があり得よう。
2-06
それだから、中央気道の中にある汚物がきれいになくなるように、絶えず純粋質性の智をもって調気をなすべきである。
2-20
また、気道が清掃されると、生気を好きなだけ静止させておくことができ、胃の中の火が盛んに燃え、ナーダ音がハッキリと聞こえ、無明息災になる。
2-73
呼気も吸気もないとき、単なる保気に成功する。この単独の保気こそは真の調気であると言われる。
2-75
単独の保気によってクンダリニーが覚醒し、ヨガの段階に達する。このことは疑問の余地がない。
2-76
クンダリニーの覚醒によって、中央気道の汚物が清掃され、ハタ・ヨガの完成が実現する。
解説
調気行法の意図は、気道を清掃し、中央気道に生気を流すことにより、ヨガに至り、ハタ・ヨガを完成させることにあると説かれています。また、呼気も吸気も伴わない単独の保気によって、クンダリニーと呼ばれる元気(根源的な生気)が覚醒することによって、中央気道が清掃されると説かれています。
第1の調気-呼気 :
息を吐くことにより生気を出す調気
第2の調気-吸気 :
息を吸うことにより生気を入れる調気
第3の調気-保気 :
息を止めることにより生気を保つ調気
第4の調気-保気2:
息が止まることにより生気の流れが止まる調気
調気は、呼気、吸気、保気の繰り返しにより、気道を清掃していく行法であり、最終的に単独の保気(保気2)へ至ることがその目的と言えるでしょう。
3.印相行法
3-001
山や林のある大地のすべてを支えているものが蛇の主神アナンタであるように、すべてのヨガ行法を維持しているものはクンダリニーである。
3-002
ヨガ教師の恵みによって、眠っていたクンダリニーが目覚めたとき、そのときにこそすべての蓮華と結節とは突き破られる。
3-003
すると、障害物のなくなった中央気道は生気にとって、通行に便利な王道となる。そのとき、心はその対象から解放され、時間からの超越に成功する。
3-122
7万2千本の気道の汚物を清掃するには、クンダリニーの修行以外に、どこにあろうか。
3-123
中央気道は、ヨガ行者が体位、調気、印相などを厳格に修習することによって真っ直ぐになる。
解説
印相行法の意図は、睡眠しているクンダリニーと呼ばれる元気(根源的な生気)を覚醒することにより、気道を清掃し、中央気道に生気を流すことにあると説かれています。また、ハタ・ヨガの行法はすべて、それが目的であると説かれているのでしょう。
4.瞑想行法
4-001
ナーダとビンドゥとカラーとして現れたまうシヴァ神なるヨガ教師に帰命したてまつる。この神に帰依するものは、汚れなき境地に至る。
4-010
種々の体位、様々な調気、色々な作法によって、かの偉大な根源力が目覚めたときには、生気は虚空のなかに消え去る。
4-011
ヨガ行者にして、その根源力の覚醒が起こり、すべての仕業を捨て去ったならば、彼には自ずと忘我(三昧)の状態が発現する。
4-023
心意の動きが消え去るときに、生気の動きも消え去る。生気の動きが消え去るときに、心意の動きも消え去る。
4-029
諸感官の主人は心意、心意の主人は生気、生気の主人はラヤである。そして、ラヤはナーダに依存する。
4-031
ヨガ行者の息の出入りが途絶え、対象の認識が止まり、身体が不動で、心も動かなくなったラヤ状態は、すべてに打ち克つ。
4-058
万物はすべて想念だけの産物である。それらすべて想念にすぎないものがらに対する実有の見解を捨て、無分別によって、ラーマよ、決定的な寂静に至れ。
4-060
すべての認識対象を知られるものといい、認識主体を知るものという。知られるものと知るものが三昧の中で平等に溶け合ってしまったならば、その他に第2の道はない。
4-062
知られるべき認識対象を完全に捨てることによって、心理的な現象も消滅する。心理的な現象の消滅が実現したとき、真我独存の状態だけが残る。
4-065
真実在を悟り得ない愚人たちにも受け入れられる行法で、ゴーラクシャナータが説き示した方法がある。それはナーダ観想法と呼ばれる。
4-098
薪において生じた火は、薪と共に消え去る。それと同様に、ナーダにおいて生じた心の作用は、ナーダと共に消え去る。
解説
瞑想行法の意図は、認識対象であるすべての想念を捨て去ることであると説かれています。中央気道に生気が流れるとき、やがて気息も止まり、心の作用も止まるとされていますが、直接的に心の作用を止める簡単な瞑想行法として、ナーダへ集中する観想法が説かれているのでしょう。
4.まとめ
- ハタ・ヨガとは、ヨガへ至るための段階的行法
- ハタ・ヨガとは、気息を止めようとする行法
- ハタ・ヨガとは、中央気道を通そうとする行法
- ハタ・ヨガとは、心気の作用を消滅しよとする行法
心の作用を止滅するために、気息の作用を止め、中央気道に生気を通し、生気の作用を止滅しようとすることが、ハタ・ヨガの意図であると言えるでしょう。
参考にした文献