2020-01-15

2019-12-03

締付(バンダ)の基礎

ハタ・ヨガを一から習う

ハタ・ヨガを実践するにさいし、まずはハタ・ヨガの根本操作ともいえる「締付(バンダ)」を頭で理解し、「締付」に対するこれまでの誤解を解き、観念を破壊し、新しく構築していくことから始めることが大切です。そしてその理解を基に実践に移し、真偽のほどを自身で確認していきましょう。

1.締付(バンダ)とは何か?

締付(しめつけ)は、教典『ハタ・ヨガ・プラディーピカー』における印相行法のなかで説かれている技法です。原語は「バンダ(bandha)」であり、「締める、閉める、固定する、結びつける」などを示す言葉とされています。「ハタ・ヨガ」と呼ばれている身体的操法と、ストレッチ、体操などとに一線を画しているのが、この「締付」と呼ばれる操作の有無と言えるでしょう。

1.教典の説明

教典『ハタ・ヨガ・プラディーピカー』では、次のように説明されています。

1-① 上昇の締付(ウディヤーナ・バンダ)

3-55

生気はこの締付に縛られて、中央気道の中を天翔けり上がるゆえに、ヨガ行者たちは上昇と呼んだ。

3-56

オオドリが疲れを知らず大空に翔り上がることが、すなわち上昇である。そのための締付を次に説明しよう。

3-57

ヘソの下から上に至るまで、腹部を引っ込める。この上昇の締付は死神である象を追い散らすライオンのようなものである。

3-58

ヨガ教師の教えるところでは、上昇はいつも自然に起こる状態-息を充分に吐き出したさいには-である。

怠らずにこの印相を修習するならば、老人になっても若々しい。

3-59

ヘソの上と下の腹部を力をいれて引っ込める。この印相を6ヶ月間行じたならば、死に打ち克つこと疑いなし。

3-60

まことに、上昇という締付はあらゆる締付のなかで最上である。上昇の締付をしっかりと行ずれば、解脱はおなずから来る。

解説

締付の1番目は『上昇』と呼ばれています。中央気道のなかに生気を上昇させるためにその流れを操作する締付であると説かれています。腹部を締付けることにより、生気を強引に中央気道を昇らせるイメージと言えるでしょう。

1-② 根の締付(ムーラ・バンダ)

3-61

カカトで会陰部を圧してコウモンを収縮し、アパーナ生気を情報へ引き上げるならば、それは根の締付と呼ばれる印相である。

3-62

コウモンを収縮することによって、いるも下降する傾向にあるアパーナ生気を力づくで上昇させる。これがヨガ行者たちによって根の締付と呼ばれるものである。

3-63

カカトをもってコウモンを圧して、アパーナ生気が中央気道のなかを上昇するように、繰り返し繰り返し、力を込めて気を引き締める。

3-64

プラーナ生気とアパーナ生気、ナーダとビンドゥの2つはこの根の締付の力で合一し、ヨガ行の完成をもたらす。これについては疑いはない。

3-65

平素より根の締付を行ずるならば、アパーナ生気とプラーナ生気の合一が成り、大小便が減り、年老いていても青年になる。

3-66

アパーナ生気が上昇し始めて、火環に達すると、そこの火の穂先がアパーナ生気に煽られて長く伸びる。

3-67

それから、火とアパーナの2つは、本来熱をもったプラーナ生気に合する。その結果、かの体内に生じた焔は極度に明るく輝く。

3-68

この焔で熱せられて、今まで眠っていたクンダリニーが目を覚まし、杖で打たれた雌蛇のようにシュッと息を吐いて直立の姿勢をとる。

3-69

それから、聖なる管である中央気道の入口に入り、だんだんその内部へ進みいる。だから、ヨガ行者たちは、いつもこの根の締付を行ずるがよい。

解説

締付の2番目は『根』と呼ばれています。中央気道のなかに生気を上昇させるためにその入口を操作する締付であると説かれています。肛門を締付けることにより、生気を強引に中央気道に流し入れるイメージと言えるでしょう。

1-③ 網の締付(ジャーランダラ・バンダ)

3-70

ノドを引き詰めて、心臓の部位にしっかりとアゴをつける。これが網と呼ばれる締付であって、老死を無くする。

3-71

この締付は多くの気道の群のなかを上から流れくだる甘露を堰き止める故にこの名を得た。これはノドの多くの疾患を無くする。

3-72

網の締付はノドの引き詰めを特色とするもので、これを行うならば、かの甘露は胃の火のなかに落ち込まない。また、生気はその流れる道を間違えない。

3-73

ノドを詰めることによって、2つの生気の流れをしっかりと止めるべし。ノドにある清浄の輪(ヴィシュッディ・チャクラ)は中央の輪であるから、この締付はカラダの16の部位の締付になる。

解説

締付の3番目は『網』と呼ばれています。中央気道のなかを生気が上昇するのを邪魔している月気道(陰)と日気道(陽)2つのに生気が流れるのを止めるために操作する締付であると説かれています。ノドを締付けることにより、2つの気道に流れる生気を強引に堰き止めているイメージと言えるでしょう。

1-④ 三重の締付(バンダ・トラヤ)

3-74

コウモンを収縮して上昇をなし、イダーとピンガラの両道を閉じて、生気を中央気道へ導く。

3-75

この方法によって、生気はラヤ状態に達する。そのときには老病死も起きない。

3-76

この三重の締付は、いにしえの偉大な大師たちが行じられたところの最勝の締付であって、すべてのハタ行法の完成をもたらすものであることを、ヨガ行者たちは知っている。

3-77

神々しい姿の月から流れ出る甘露はことごとく日が飲んでしまう。そのために肉体は老衰するのである。

3-78

これについて、日の口をごまかすのに、すぐれた手段がある。しかし、これはヨガ教師の指導によってのみ会得できるもので、たとえ100万の理論をもってしても会得することはできない。

解説

締付の4番目は『三重の締付』と呼ばれています。中央気道のなかに生気を上昇させるために、根、上昇、網の3つの締付を総合的に操作する締付であると説かれています。

教典の締付

教典では、中央気道のなかに生気を上昇させるために、腹部、肛門、ノドの3ヵ所を締め付ける技法が締付とされている。

2.一般的な説明

一般的には、おおむね次のように説明されているようです。

上昇の締付:

腹を、背骨に近づけるように締付ける。

根の締付 :

会陰を、尿意を我慢するときのように締付ける。

網の締付 :

ノドを、アゴを軽く引くように締付ける。

一般的な締付

一般的には、主として「腹を凹ませ、尿意を我慢し、アゴを引く」ことにより、生気(プラーナ)の流れを調える方法が締付とされている。

2.尾山ヨガ教室の説明

一般的な締付の解釈では、おそらく腹、会陰、ノドを締め付けさえすれば、それは「締付である」と見なしていることでしょう。しかし、どれほど丁寧に腹を締付けても、会陰を締付けても、ノドを締付けても、それが「機械的、人為的、部分的」な制御であるならば、決して「締付」は起こりません。

尾山ヨガ教室では、生気の流れを調えるためにこれら3つの部位に締付が起こるように行います。しかし決して「3つの部位」を強調することはありません。それは締付を、部分的な操作として捉えていないからです。それでもあえて部分を強調している部位は「鼠蹊、腋、眉」の3カ所です。

これを一般的なヨガ指導者が聞いたなら、「鼠蹊の締付? 腋の締付? 眉の締付? 何それ?」となることでしょうが、この3つの部位に注意することは、全身の繋がりを切断するというこれまでの癖を取り除き、「有機的、無為的、全体的」に「締付」を起こすのに役に立つのです。


眉の締付なんて…… 眉唾!?


それなら、真偽のほどを自身で確認すればよいのです。しかめっ面が起こるほど大袈裟に、「痛ってーーーー!!!」という演技をしてみましょう。

しかめっ面(顔の締付)

さて、姿形はどうであれ、このとき「会陰部、腹部、喉部」の締付が自然と起こるはずです。いつも練習している締付とは姿形は異なることでしょう。しかしここでも、重要なのは目に見える姿形ではなく中身です。この中身こそが、生気の滞りを解消してくれるのですから。

いつも行っている締付の練習、あるいは体位の練習に、この"自然と起こる"眉の締付(しかめっ面)を取り入れてみましょう。それだけで、締付が極まるようになるはずです。

締付とは「伸び」を起こすこと

基本的には、尾山ヨガ教室における「締付」は「伸び/欠伸」と同義語です。要するに締付の狙いは、身体に備わっている「伸び」という身体を自動調整する反射作用を発動させることにあります。つまり、「んぐ~~~」っと伸びをするとき全身の流れがツナガリ、「鼠蹊、腋、眉」を含めた全身に締付が入るということです。

● 締付と伸び

締付に伴い起こる緊張感覚は、伸び(欠伸も含む)に伴い起こるそれと同じであり、それは筋肉が「ぎゅううう」と緊張する快適な感覚である。
伸びとは、身体を緊張させた後に弛緩させることにより、滞った生気の流れを取り戻そうとする生体反応であり、元来生体に備わっている身体調整である。

『ハタ・ヨガの修行法』P19 締付と脱力より
尾山ヨガ教室の締付

尾山ヨガ教室では、「伸び」という全体一致の反射作用を起こすことにより、生気(プラーナ)の流れを調える方法を締付としている。

2.全体一致

姿勢が調っていることは、全体一致としての締付が極(き)まるための基礎となっています。つまり、正しい姿勢が身についていてこそ、締付が極まるということです。ここでは「締付が極まる」と表現していますが、それは正しい姿勢に加え、正しい方法で行わなければ、どれほど会陰や、腹部や、喉部を締付けようと、それは(尾山ヨガ教室において)締付ではないということです。

ところが、「正しい姿勢の原理原則」でお話をしましたように、一般的なヨガ教場でいう正しい姿勢は、「無理をした姿勢」、つまり「身体の機能に反した非合理的な姿勢」であり、「機械的、人為的、部分的な制御をしている姿勢」であるのが現状と言わざるを得ません。本当に正しい姿勢とは、「無理をしていない姿勢」、つまり「身体の機能に従った合理的な姿勢」であり、「有機的、自然的、全体的な姿勢」であり、「自然体位」と呼べるものです。

正しい姿勢の原理原則はこちら

レッスン1

● 自然体位(無為による全体一致)

無理を「しない」姿勢が自然体位である。何も「しない」でも、部分の変化に協力して全体が変化する姿勢が自然体位である。即ち、勢力の流れを邪魔することを「しない」ことによって、自ずから然りと収まる姿勢、それが自然体位である。

『ヨガの太陽礼拝』P30 1.調身行法 より

そして、この全体一致の原理に反した"無理をした姿勢"で締付をしても、ますます無理をするだけであり、ますます不安定になるだけであり、ますます不快適になるだけなのです。その逆に、全体一致の原理に従った正しい姿勢、正しい方法で締付をすると、全身が固いきずなで結びつくかのように、全身が同時に締付けられる、ということが起こります。


加えて、全身に"あの「伸び」の快感"が生じます。

3.無為自然

尾山ヨガ教室では、"あの「伸び」の快感"が生じた状態を、「締付が極まった状態」と呼んでいます。正しい姿勢がそうであるように、正しい締付もまた"無為"でなければなりません。人為的に会陰、腹部、喉部の締付をしようと試みても、"あの「伸び」の快感"は生じ得ないのです。ただ、無為に締付けられるときのみ、"あの快感"が生じるのです。

本来的に、全身はつながって機能するものであり、その全身のつながりを人為的に切断さえしなければ、正しい姿勢も、正しい締付も自然と起こるものです。結局のところ、ハタ・ヨガであっても、心身を人為的に制御しようとする努力ではなく、心身を人為的に制御しようとする習慣を止めていく努力であるとき、それは「ヨガ」と呼ぶに相応しくなると言えるでしょう。


"人為的"を制止していきましょう。

一先ず、無為へ導いてくれる「痛ってーーー!!!」をお試しあれ。

しかめっ面(顔の締付2)

尾山ヨガ教室の締付は、無為ゆえに自然な締付なのです。

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レッスン3