2020-11-16

体位(アーサナ)の基礎

ハタ・ヨガを一から習う

前回のレッスンでは、ハタ・ヨガの根本操作ともいえる締付(バンダ)のコツについてのお話をしてきました。今回は近現代ヨガでお馴染みの「体位(アーサナ)」の基礎を習っていきましょう。

前回のレッスンはこちら

レッスン3

1.「体位(アーサナ)」とは何か?

体位は、教典『ハタ・ヨガ・プラディーピカー』において最初に説かれている行法です。原語は「アーサナ(āsana)」であり、「坐り方、坐法」などを示す言葉とされています。

1.教典の説明

教典『ハタ・ヨガ・プラディーピカー』では、次のように説明されています。

1-17

体位はハタ・ヨガの第一部門であるから、最初に説くことにする。心身の強健と無病、手足の軽快などを得るためには、体位を行うがよい。

1-56

我々は気道を清掃する方法である印相などの生気に関する作法を修練しなければならない。それは上述した体位行法、種々の調気行法、ならびに印相行法と呼ばれる諸操作からなっている。

1-57

その次にナーダ音に心意を集中するのが、ハタ・ヨガにおける修習の順序である。梵行を守り、食を摂し、すべての欲望を捨てて、ヨガに専念する人は、一年後にはシッダ(達人、成就者)となるであろう。このことについて疑いを差し挟んではならない。

解説

ハタ・ヨガとは、①体位行法 ②調気行法 ③印相行法と呼ばれる3つの行法によって気道を清掃して生気の流れを調える行法であり、そのための第一歩が体位行法であり、最終的にはナーダ音と呼ばれる精妙な音に注意を向ける瞑想行法により、ハタ・ヨガは達成されると説かれています。
※ ナーダ音:胸(アナーハタ)から発せられているという音。それは顕現(意識)における根源的な振動とされている。

教典に紹介されている体位

教典『ハタ・ヨガ・プラディーピカー』には、以下の体位が紹介されています。

  • 吉祥の体位(スヴァスティカ・アーサナ)
  • 牛面の体位(ゴームカ・アーサナ)
  • 英雄の体位(ヴィーラ・アーサナ)
  • カメの体位(クールマ・アーサナ)
  • ニワトリの体位(クックタ・アーサナ)
  • 上を向いたカメの体位(ウッターナ・クールマ・アーサナ)
  • 弓の体位(ダヌス・アーサナ)
  • 魚の王の体位(マッチェーンドラ・アーサナ)
  • 背面を伸ばす体位(パシチマターナ・アーサナ)
  • クジャクの体位(マユーラ・アーサナ)
  • 死骸の体位(シャヴァ・アーサナ)
  • 達人の体位(シッダ・アーサナ)
  • 蓮華の体位(パドマ・アーサナ)3種
  • ライオンの体位(シンハ・アーサナ)
  • 壮麗の体位(バドラ・アーサナ)

この中で最後の4つの体位を最高であるとシッダ(達人、成就者)たちは見なしており、その中でも「達人の体位」だけは7万2千本の気道を清掃するから、いつでも行ずるべきであるとしています。

教典『ハタ・ヨガ・プラディーピカー』では、「達人の体位」は次のように説明されています。

1-35

左踵を会陰部にあてがい、右踵をしっかりと性器の上方にすえる。アゴをしっかりと胸のあたりに引きつけ、上体をまっすぐに立てる。諸感覚器官を外界の対象から内方へ引っ込め、視線を凝らして眉間を見よ。

これこそが解脱の障害を断ち切るところのシッダ(達人)と呼ばれる体位である。

解説

基本的に教典には、体位行法のなかで締付を行うことは説かれていません。しかしこの達人の体位のように、明らかに印相(締付)の説明と類似している体位もあります。ここから、ハタ・ヨガにおいては体位行法、印相行法は明確に区別される行法ではないと推測できます。

教典の体位

教典では、体位行法と印相行法に明確な区別はなく、気道を清掃する方法を体位行法としている。

2.一般的な説明

一般的には、おおむね次のように説明されているようです。

  • 瞑想するための姿勢

これは、『ヨガ・スートラ』に説かれているアーサナ(坐法)と『ハタ・ヨガ・プラディーピカー』に説かれているアーサナ(体位・締付)とを同一視しているということです。つまり、ハタ・ヨガでの種々の体位においても(締付をするしないに関わらず)姿勢を調えるということを目標にしていると言うことです。
※ もちろん指導者により取り方は多種多様で特定できるものではありません。

一般的な体位

一般的には、体位行法と印相行法に明確な区別はなく、姿勢を調える方法(調身行法)が体位行法とされている。

3.尾山ヨガ教室の説明

尾山ヨガ教室では、すべての体位で締付を行っています。つまり、体位行法を印相行法として行っているということです。しかし、「姿勢を調える調身行法としての体位」と「締付を行う体位行法としての体位」とを明確に区別しています。

体位の区別

尾山ヨガ教室では姿勢を調える練習、さらにはその延長線上にある動作を調える練習では締付を行うことはありません。それは例えば、坐位姿勢での「金剛の坐」や、立位姿勢での「山の体位」など、あるいは四つん這い姿勢での「猫と牛の動作」や、「太陽礼拝」などの練習などです。

なぜなら、姿勢を調えるのに締付は不要であり、それはつまり締付をするべきではないからです。単に姿勢を調えるのであれば、姿形やバランス、呼吸を調えれば済むことですし、長いこと締付を維持していたら疲れ果ててしまうことでしょう。

締付とは身体を緊張させる行為であり、それは『ヨガ・スートラ』の説く坐法(アーサナ)の定義に反する行為ともなります。

● 坐法

2-46

座り方は、安定した、快適なものでなければならない。

2-47

安定した、快適な座り方に成功するには、緊張をゆるめ、心を無変なものへ合一させなければならない。

佐保田鶴治著『解説ヨーガ・スートラ』 P112 より

尾山ヨガ教室では、次のように体位を明確に区別しています。

体位1:

「安定と快適」を実践するための体位

体位2:

「締付と脱力」を実践するための体位

これはまた、『ヨガ・スートラ』に説かれているアーサナ(坐法)と、『ハタ・ヨガ・プラディーピカー』に説かれているアーサナ(体位・締付)の区別でもあります。この2つを混同し、どうにか繋げようとすると、どちらにも無理が起こることになります。締付とは一時的に行う操作であり、坐法のように持続的に行う操作ではないというのが尾山ヨガ教室の見解です。

尾山ヨガ教室の体位

尾山ヨガ教室では、調身行法と体位行法とを明確に区別し、体位行法と印相行法とを区別せず、気道を清掃するための方法を体位行法としている。

2.全体一致

全体一致の原理に則した無理のない姿勢であれば、どのような姿勢でも締付を極めることができます。その逆に、全体一致の原理に反した無理をした姿勢であれば、いくら締付けようと締付が極まることは決してありません。

例えば先ほど紹介した「達人の体位」で全体一致の姿勢を作るのであれば、教典にあるように眉間を凝視するのではなく、眉下を降下して眉間に勢力を集中することで締付は極まりやすくなります。

調身行法であろうと体位行法であろうと、全体一致の原理に則していくことが修行であり、成就(シッダ)への道と言えるでしょう。


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